●大村浩一 ビジュアル詩「シルヴァ」




シルヴァ

                                     


空が僕を見ていた
                                     




息が詰まるほど永い頭上の直線
滑るように進んでいく僕を
そのように
幻想したかった歌
吃音気味にスキャットする
正午の前
 

青い輝きの中
風に打たれて身じろぎもできず
揺れる計器のボールの中で
ただただ今を張りつめていた
あの人達の翼
電界は父たちへの弔電で満ちていって
語るべき事を語らないまま
見る見る透けて消えていく
一、二
そんな薄まるばかりの日々が
続いていく






飛ぶ事など実際には
誰にも思いもよらなくなった
借り物の世界に
ガンマ線より僅かな痕跡を
残してみせただけ
今や推力を無くした僕のからだに
折り返しの清算が
待ちかまえる


遠い昔 南方のどこか
嵐の目に閉じこめられたひとたちの眼にも
もう測位には役立たない星が
今と同じように静かに輝いていた
翼龍の夢、夢の翼龍
追っていた女神の巨大な背中が
希薄に ただ希薄に
晴れやかな拒絶の笑顔を見せて広がり
人として君らは涙を流す
十分後には
石のように墜ちていくのに


不思議だ、
これほどに輝いていて
どこにも行き着くことが無いのは
不思議だ、
やがては僕もここから
抜け落ちていくのは  


(現実に居るのは星の裏側かどこか)
(月の影が感覚させる恐ろしい隔たり)
(あるいは澄んだ水が)
(砂粒や死んだ虫を押し流すのを見てた)
(そんな午前のたたずみ方)



空が僕を見ていた
息が詰まるほど永い直線

ゆっくりやろうと
繰り返す歌


そう思いたかった


正午を過ぎる


                                     

初出 1996/03/15 FPOEM
改稿 1997/09/13



 文字の詩ばかりではつまらない…という事で、著作権フリーの画像データを組み合わせてみました。
「シルヴァ」はスキャットマン・ジョンの心優しいラップに思いを寄せた自分が、サン・テグジュベリの航空小説に触発されて作った詩作品です。

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