岡部淳太郎氏主宰の詩の同人誌「反射熱」に掲載した、

紙の電車の話です。キットを作った主旨などを書いていますので、ご一読頂いたら幸いです。

 

紙のまちの電車を紙で作った

大村 浩一

 

 このところ、詩はほったらかしで違うことばかりしている。静岡に移って2年、仕事で多忙なうえ地元に詩人仲間が居ない事もあるが、何よりいま「紙の電車」作りにハマっているためである。

 と言っても一人部屋に篭って模型を作っている訳ではない。イヤそういう事もするが、自分でペーパークラフトのキットを印刷製造して岳南電車へ納入、しかもそれを鉄道関連イベントなどで自分が売り歩いているのだ。

 

■ペーパークラフト「紙の電車」

 

ペーパークラフトと言っても大げさなものではない。厚さ209g/m2のマットコート紙の上に印刷したものを箱状に組み立てる飾り物、またはオモチャである。

特長としてはカラー印刷済みなので後から全く塗装しなくても完成できること、本格的な鉄道模型であるHOゲージの縮尺(1/80)に合わせたこと、売価が現状では250円程度と廉価であることだ。

 

■危機迫る岳鉄に「紙のまち」の商材を

 

 2年前に郷里静岡市へ仕事の都合で戻り、職場のある富士市に通うようになってから、地元の鉄道である岳南鉄道(以下岳鉄)が経営難に陥っていることを知った。IT産業の伸長に伴い紙需要が減退し、日本製紙が貨物輸送を打ち切ったため売上が4割も減ったためだ。当面富士市が2年間、年6千万円の助成金を出して赤字の穴埋めをすることで存続しているが2014年度がその期限で、続くかどうかは不明である。

 廃止してしまうことはたやすいが、一度廃線したら復活させることは難しい。引き込み線に毛の生えたような小私鉄だが年間の利用客は大井川鉄道より多く、東海道線や高速道路から離れた吉原の町の繁栄をぎりぎりのところで支えている。原発が存続できるなら、岳鉄が存続したって良いじゃないか、と鉄道ファンの私は思った。

そこで岳鉄を支援でき、製紙のまち富士の町興しに貢献し、なおかつ自分のシュミを活かせることを考えたらペーパーキットになった。調べてみたらこの鉄道には紙製のグッズがない。ペーパークラフトなら安いコストで市民へ岳鉄存続や地域振興をアピール出来る。また自ら紙需要を発掘できる点で地域産業への応援や問題提起にもなるから、製紙産業の専門誌といういまの仕事とも整合する。模型化に伴う権利関係についても、売上を全額岳鉄に寄付するなら文句はつくまい、と考えた。

 実際に201210月の「富士山紙フェア」で売ってみたら、寄付を前面に出した事もあって2日間で70両も売れた。誰にも相談せず独断でやったため寄付金の納付に際しては紆余曲折があったが、岳鉄側のほうでキットを気に入ってくれて、同年末には何と岳鉄の公認グッズになってしまった。面白くなって派生型をいろいろ考えたら、現在までに4タイプも出来て、それぞれ売れている。

 

■紙製ガレージキットが出来るまで

 

 前出の通りこのキットは、やや厚手のマットコート紙に印刷したものを、箱状に組み立てるものである。

 図柄はパソコンを使いDTPソフトで私が作る。実際にはネットで見つけた真横の写真を使い、その上に輪郭を描く。あとは試作を重ねて寸法を修正していった。

 描画にはドロー系ソフトを使う。初期はMacAdobeイラストレータを使ったが、現在はWindowsで動くCOREL社の「コーレルドロー」である。売価15千円でイラストレータとデータ互換可能なスグレモノ。マウスで右クリックを活用できる為、使い勝手で勝る部分もある。

 Adobe社のDTPソフトは現在では月額5千円(つまり年間6万円)もかかるクラウド版しかないのでホビーユースだけでは導入困難だが、このCOREL社のソフトは買いっぱなしで良く、しかも写真レタッチソフトまでおマケについていて大変お買い得である。

 印刷には自宅のインクジェットプリンタを使う積もりだったが、会社にある東芝製の汎用カラーコピー機が厚紙も通せると分かり、印刷速度や仕上がりも圧倒的に勝るのでこちらを使うようになった。現状では岳鉄向けの「製品版」もこのプリンターで作っているが、何ら不具合は起きておらず、買う側も作る側も圧倒的な低コストで済む事にとても感謝している。

箱に組み立てるのはカッターなど普通の紙工作の道具で足りるが、接着剤は木工用ボンドを使う。セメダインCは有機溶剤が臭くて子供の工作に適さないし、でんぷんノリは粘着力を発揮するまで時間が長く、はみ出すと汚れが目立つ。生乾きで強烈に粘り、乾くと透明になる木工用ボンドは、木と同じセルロース繊維で出来ている紙の接着には相性が良いようで愛用している。

 

■金儲け主義の模型業界に一石を

 

 現状では岳鉄自身が吉原駅の改札所で写真集や記念切符などのグッズと一緒に売っているが、地元の鉄道や紙産業系のイベントなど、出展費用がかからない催事には私がボランティアで参加し販売している。大体1日で約20両は売れてしまう。寄付集めが目的で金儲けを考えず廉価で売っているからだと思うが、岳鉄存続の目処がつくまでは続けたい。今後さらに署名運動などに繋げていければと思う。

 現状では商売の権利は岳鉄が持つ形になっていて、私が勝手に売って利益を得てはいけない仕組みになっている。製品は伝票を切って貰い一度岳鉄から預かり、販売後に売上と残品を返却している。労力を考えれば完全に私の出費ばかりだが、こうすることで権利関係のややこしさから逃れてキット作りに没頭できるので、面倒一切無しでキットメーカーの気分を味わえ、痛快である。

またいまの玩具・模型メーカーは金儲け主義の商売しかしていないため、肝心のニーズを取りこぼしている事にも気付いた。紙の電車がウケるのは、それがいままでの鉄道模型・玩具に比べて圧倒的に安いからだ。

「作れば安く楽しめる」ということを皆忘れてしまい、利益を確保するために単価を上げて買い手を大人に絞った結果、鉄道模型は末永いリピーターとなる入門青少年が激減して市場規模自体が縮小してしまった。

子供がすぐ壊してしまうような精密な玩具を買わせて、親に無意味な高額出費を強いるいまの玩具・模型業界のやり方に、「紙の電車」は一石を投じるものだ。

あと、「紙の電車」には教育玩具的な使命もあると気づいた。自分が器用な方だとは思っていなかったが、今の子供たちは紙を四角く切る事も出来ないし、学校もカッターを持たせたがらない。そんな子供たちが将来、一体どうやって半導体や精密機械を扱うのだろうか?

…こんな風に考えていくと、たかが紙製の模型であっても現実世界に関われる能力は馬鹿にしたものではなく、ますます面白くなってのめり込んでいる、こういう次第である。

 

20141月「富士山紙フェア」での写真。

「駅」は比奈駅そばの鉄道模型店「Studio501」の製品「岳南電車駅のペーパーキット」。地元製紙メーカーの板紙を使い、レーザーカットで駅の鉄柱など原型の独特なデザインを忠実に再現している。駅のキットは同フェアのペーパービジネス大賞を受賞し、Fuji Brandにも選定されている。

 電車のほうは私の作品。写真はいわば便乗したもの。但し初期には駅キットに私の電車キットも同梱されていた。