1988(昭和63)年12月に出版した大村の第2詩集(流通は初めて)「ファ
ーゼライ」を掲載順にUPします。9年前の旧作ですが、何かを感じて頂けたら幸い
です。「ファーゼライ」とはドイツ語で「たわごと」の意味です。

ファーゼライ   大村浩一





だまし通すことができないなら
僕は沈黙する---




<Day-Stage 1>


*EXchange


冷えた空気の
そとへ出ていこうとした。
まだみえない結界に向かって
いきなり盲の岩が
おまえを追いつめる。


その振り向きざまに
じり  と
焼けていく冷えがあって
そう、
息をはくときにも吸い
みられていないあいだにも
いれちがい出入りして
つけまわす
このからだを。


まだ尖ったまま
やわらかいムネの
肌にくい込んでいく、
ぼくのしなやかな指の
まるで
あのころのまま、


ふふ、
また捉えた、

また

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*Lesson


水がのぼってくる。
樹が揺れる。
音がせまってくる。
瞳がせまってくる。



率直に。



水がひいてゆく。
樹が倒れる。
音が離れてゆく。
指がはなれてゆく。



もう一度。

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*Breafing


前へ。
それだけを乞い、
バーズ・アイは壁をこえた。
次の場所へ。
ごらん、
ここにも傷あとがある。
いくばくかは悩みもし、
冷やかに拒まれ。
またときにはもつれあう、
なぜ  いつも


分岐。
もし、黒い石を持っていたら、
樹果へ。
でなければ承前へ。


このあいだにも、
繋ぎとめようもないままに
失明してゆくひとたち。
いれかわり、たちかわり
間違いなく来る今日に
倦み疲れ、
この場に折れ重なったまま
あまつさえ
フリードリヒの幻を
夢見て。


水。
不実な迷いを
たてつづけに産み続けた、
透きとおった蟻。
わしづかみの地下茎は
間もなく
思い出を病んだ岩盤の
芯に届く。


霧が
暫く必要になる。
かもしれない、

そこでこなごなの

そこでこなごなの
うで  に
触れた指で
まず円が描かれ、
つぎには
意図がつながれる。


すぐにあなたは
やってくる。

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*Pre-View


書きかえなければならない。
緋色の石、
円柱の轟き、


課せられたのだ、
僕ら。
どこにいても、
果実の割られるときの
悦びの声が聞こえる。


これは、たぶん今までで
最も悲惨な儀式になる。
順不同に溶かされた文節で
なおかつ「わたくし」へと
もどらなくてはならない、
ということ。


限りない雁行、

恐らくは公算外の
短い雷雨のうちに、
達成せねばなるまい。
今は崩れていく
日付けのなか、
たぶん夏に。


(あるいは  そのまわりで
  形象ばかりの白い花が咲くこと)


まだ暫くは続くだろう、
流れるもの。

だが、
よどんだところでは
垂直になっていく他ない
廃船たち。
予告もなしに
変えられていくことどもに、
僕らはどう乗っていくか。
ときにきれぎれの会話のなかに、
でなければ深夜の樹々のゆらぎに、


思わぬ私生児たちの
襲撃にであうか?


約束された
不可能性、

見えない馬にむかって、
僕らの華々しい
追撃がはじまる。

敢えて、
僕らの「いま」へと
帰還するための。


滅裂な指の
          おもいでの
                    反復



(  だが、なぜ  )

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*Buffer


もっと
単純な早さで、
前縁を形成すること。


たとえば舞いあがる
一面のグラフィックス、
血管から血管へとつながる
可逆性のこの鍵で、
あのひとを窓のそとに
連れ出してしまおうか、
その匂いたつ
からだごと。


まだ小さかった頃からずっと、
僕は都市計画をたてていた。
植樹の、舗装の、工場誘致の。
今では住民たちのリストまで出来ていて、
あと望まれるのは、
水晶から配管工に至る
一連の怪しげな接続、および
これら一切を破裂させる
居直りの手口というわけ。


教えないよ、
これらは僕だけが
生まれてはじめて勝ちえた
アドバンティッジだもの。
見えている敵ならば、
恐れようがないもの。


(急所を突けば、
  世界中の木の実を割ってしまえる)
そんなありもしない伝説で
皆んなをたぶらかそう。
ほんとうの敵なら、
まともな手口では絶対に来ないよ。
王様は裸だ。


市役所の大食堂も
壁紙一枚剥がした下は、
おびえた羊どもの
目もあてられない
スタンピード。


もっと、
単純な早さで、
前縁を形成すること。


どこかで
正午の鐘が鳴らされ、
僕は
「閉曲面に住む蛇」とかの
うす気味悪い集会から
今ようやく抜け出して、
紙袋をつかんだまま、
濡れたレンガ塀にもたれて
息をととのえている。





                        F
                      FORMATTING
                        R
                        M
                FORMATTING
                        T
                        T
                        I
                        N
                        G






また、雨です
くり返します




また、雨です
      雨の日の
            電車はすてき
          広い窓を
      斜めに
雨がつたって・・・・


                                              サン・シールが
                                            救援を
                                    請うています

    対策が無ければ
    二十四時間以内に撃破されます



雨の日の
  電車はすてき
      切り取られた「窓」の
                  向こうがわ
                                                ドレスデンは
                                    ベルリンの南方
                              エルベ河に面し
                降りてくる白の                  ライプチヒは
    ほの明るく                          その西方
ステンレスの電車は                        ムルデ河がつらぬく
    濡れてつややか                      橋を
        その突進するさまを      含む街を

                    想像するのは楽しい


          炭素鋼のうえを

    雨は斜めに流れて

電車はすてき
      その窓が  くもる
                    ことも
                                                    中断せよ
                                            中断せよ、
                              書かれた場所で、



傘をもって                                1813年10月、
    西へ向かうとき                「グラン・ダルメイ」は
僅かに僕は左へと                            残響のなかを
            傾いている?          戦っていた?

                  だめだ、うまくいかない。


雨の日の                                        マスケット銃
  電車はすてき、                              失火する、
    赤いシートに座って                戦闘の因数群
      冷えた窓に  もたれて      ささいなことで
                          ゆらぐ
                                      帽子  靴
                                              それから
                                                      ドラム
      (  つなぎとめて  )

            そこから未明の水が流れこんできて


        目があけられない
    その  窓
三十秒間
      記述が混乱する                大ドイツの
            都市群は濡れる              すてきな  シロ
              ドレスデンは      青や    赤の
          ベルリンの南方            信号に紛れて
            連合軍は            エルベ河で
        手を結び      犬と愛人は            毒をあおぎ
    指揮官は逃亡し            致命的なCodeを

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                                (  埋めこむ  )


と  いう
      ずれ方で
            残響はつづけよ

                                (  三時から
                                            五時までの雨量は
                                          百ミリから
                                        百五十ミリ  )


                                                  テキストは
                                              意味に飽食した

                                                      萎えた
                                                葉と葉のなか
                                                        まだ
                                                  兆してくる
                                                  なんという
                                                声なのだろう
                                                          か


雨の日の
電車がとまる
互いに  なぐさめあうだけの
ひと綴れが
ふれ合って
扉がいっせいに開いて
風が  巻きこんで
出入りするのは
すてき

        雨の日の

                    電車はすてき

                                          雨の日の

                                電車はすてき
            雨の日の
                        電車はすてき
        雨の日
                夜と朝の
                          甘やかな  まちまで
        雨の日の        蝕ばみあう        みどりの
            電車はすてき          白と黒の        赤い
    (  あの声は?  )        南から      雨の日の
        電車がくる      待たされて              ライプチヒの
  ゆらいでいる          雨の日の      すてきな  あなたは
    狂おしくかき乱れて            電車がくる
        ライプチヒの橋へ      雨の日の
                      雨の日の
                              雨の日の
              雨の日の                雨の日の
      雨の日の            雨の日の              雨の日の
  雨の日の雨の日の雨の日の雨の日の雨の日の雨の日の雨の日の
    雨の日の雨の日の雨の日の雨の日の雨の日の雨の日の雨の日の
      雨の日の雨の日の雨の日の雨の日の雨の日の雨の日の雨の日
の








                ドレスデンは爆破される







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注:グラン・ダルメイ=ナポレオンの大陸軍のこと。

※「ファーゼライ」はこの後3ステージを持つ大型の詩集でしたが、
デジタルデータはいまだ復元出来ておりません。
 いずれ公開出来ると思いますので、期待してお待ち下さい。

                1996年9月10日 大村 浩一

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