****大村浩一 ネットワーク総詩集****
       1989-1994

<はじめに>

 この詩集は、自分がパソコン通信を始めた1989年から1994年初頭まで、ニフティ・サーブ「詩のフォーラム」に発表してきた作品を総集したものです。

 その当初1989年の時点で、すでに私は27歳になっていました。
 本格的に現代詩を書き始めてから6年、「日本未来派」で書くようになってから 4年が経過し、何とか第一詩集もリリース出来た直後という状況で、全く新しい双方向媒体としてのパソコン通信に遭遇したのです。
 そこに詩の未来を夢見て「詩のフォーラム」に入会した私は、初代SYSOPのKAWAさんと出会い、当時自分が出版社で編集をしていた職能を活かして、KAWAさん達と一緒に「えふ・ぽえむ」という、史上初の「パソコン通信による共同詩集(アンソロジー)」を作る事が出来たのです。…この4冊の出版と、パソ通を通しての多くの人との出会いには、今も感謝の止む事はありません。

 詩作とネットワークは、私にとって始めて、自己を実現できた場所でした。
 その後諸般の苦い事情から、文芸の出版社から別の専門書の出版社へと籍を移した今も、詩と出版に対する期待は少しも変わりません。 誰しもそうだとは思いますが、私は特に、自分の未来を担うものとして作品を考えています。ネットワークに掲示した詩は総て、既存の活字媒体や詩壇に、そのままで通用する密度と精度を持ったものとして書き続けてきたつもりです。
 それを私は今まで自分の誇りにしてきたし、また今後も、そう言い切れるだけの作品を書き続けたいと思っています。

                    1996年7月21日 大村 浩一


<1989年>


 Daybreaker(朝を呼ぶ者)


おはよう、


お、
おはよう


ぼくの多淫な夢。


まぶしい道、
バラ色のきずぐち。


からだはいつも
思いだせないほど
近づきすぎる、
群生する白い木の芽に。


どれほど指が優しくても
触れるまではとり乱すなよ、毛ジラミ、
笑え、中世の、
あはは、



おはよう


ぼくの刃物沙汰の


でなければ
まきついたツタ、
それとも散髪屋にて
切れ目の見つからない


(もしかすると
 もう二度と

 連絡はつかない?)

すりよってくる
危ない 素肌
の下に広がってくる
ぬくみ
息をする その口に
ところかまわず
押しあてたい、
ここではぼくの
水浸しの床や
裸うさぎの系譜図、
書き手さえも間引かれていく
その自生する 夢


だとしたら
でないとしたら


だが もう


ふりかえる(な)
ここの、
うりふたつの 海
それとも
崖っぷちのMay-Day

祈るな 不意撃ちのこどもたちに
封印された蟹よ。
この単純な喜びは遂に
ぼくのものだ。


でもそれでも
石は削れていく。
過敏なおもいでを
なぞりすぎる。


だからもう


おはよう、
あなたの
透き通った腕。


ゆうべのうちなら
しがみつくことだって
できただろうけど。


おしまいのほうからは
未来の中の別な夏や
たちまちの月、
誇らしげな妊婦などが。
不思議だ、こんなにもコナゴナな
破れ鏡のなかにさえも
物語の奇形の線は
たどっていける。


水音が聞こえるのなら、
遠のいていくばかりの
さみしい言い替えはやめて。
あなたは あなたの
はじめてのことばへと
もどりなさい。


おはよう、
もう
とりかえしのつかない
ぼく


おはよう


それとも


UPLOAD 89/01/01 06:25
第一詩集「ファーゼライ」(1988年12月、新風舎)より改作
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 LESSON


水がのぼってくる。

樹が揺れる。

音がせまってくる。

瞳がせまってくる。

率直に。

水がひいてゆく。

樹が倒れる。

音が離れてゆく。

指が離れてゆく。

もう一度。

UPLOAD 89/01/08 01:52
第一詩集「ファーゼライ」(1988年12月、新風舎)より転載
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          MULTI-TASK
                TUSK
                    --何と数多くの牙--


張りつめた待機。

僕はあの、輝かしい。
険しい境界からの、
今日はじめての帰還者だと思っていた。


どんな海を見たのだろう。
あの真新しい、まぶしい不安のことを
どう言えばいいのか。


しかしそのことを、
もう知っている誰かがいる。 *1
ここにはいない彼らが、顔を上げるのを感じる。
出遅れた僕はまだProcessの途中にいて---
まだわななきおののいているものを
整理できないでいる、あれは
何だったのかを。


張りつめた待機。


切りとられた後の傷口をなでている。
(これは僕の仕事だった筈だ?)
僕はつけねらう他の未知の誰かにおびえる。
先行者か、それとも追跡者か。


白い牙。
つけねらう、たくさんのお前たちの、
何と数多くの牙。


僕はからだののろくなるのを感じる。
何か嫌なものが割り込む。
僕の大切な平静をかき乱すもの。
打ち抜くにしても、かわすにしても、
それでも僕が拒み続けた筈の、
また同じ形の影が浮かびあがる。


からだはいつか夜の側にいて、
雨の匂いをかいでいた。
「語イ、語イ、コノテーション、 *2
キノウニ縛ラレタコトバノアシタノ。
私デハナイ私ノ。」
問いかけのあいだに、
無残にもずれていく。
「花は完了されたか?」
「花は・・・・」


そして僕は唐突に---
この部屋に呼び戻される。


張りつめた待機。
僕は僕をどうにかして越える。
そのことはもう学んだ。


眼を閉じて、又見開く。
街の轟きが遠くしている。
見えない背後かからの敵意を感じる。
52の眼の、52の耳の、26の喉の。
そして無垢の平面に狙いをすます。
数多くの、

何と数多くのつけねらう牙。


もう遅い、知らぬ間に僕たちは
次の段階へ進んだのだ。
外には彼らがいつでも居て、
僕はどのようにでも見られている。


花は完了されたか。


勝ち誇った順に、
歩く人たちのなかで。
何者かの眼を思いながら、
僕はむしろ
裏の領域で走り続けている。
夏の、
のような。


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NOTE'
*1: 篠原憲二詩集「もう知っている誰か」より
*2: コノテーション・Connotation >>>含蓄、言外の意味。
牙=書き手のことです。
UPLOAD 89/01/20
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 C E L L (セル=細胞)

あ   る
ない
ないた
あした
なきがら
あしから
まいあがる
たちあがる
ないのは ありか
いたいは たしか
てん てん てん
なきはらす
ありかのない からだ
あふりかの けにあからか
あになやむ
なしなやまず
あめはふる
ないあがら
くちあだき
ずはかかれた
れいだいは
てんじされ
ゆきずりの
くじらたち
なきがらは ない
あるのは あした


未完成詩集「すぺしゃる」より
UPLOAD 89/02/04 16:17
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 Emission
         ---- 放射、放出


乾いた声で押し戻される。
目は何者かを捜している。
部屋には、獣の匂いが残されている。
時刻は次の、
許されない時刻へと変移する。
巨大なものが近づく。


足許の地球では、
汗ばんだ男がまだ痩せ馬にしがみついている。


ゆがんでいく犬。
眠らない海。
見る。
見られている。
影はすべて人の形へと似かよっていく。


夜へと叫びつづけている部分がある。


UPLOAD 89/02/11
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 BLOW
     ---- 一吹きの風----


風は吹いているか?
午後の----
東に向かいあう崖の
高みのうえで
いまも、


見うしなった。
一連の動作のあいだに。


ひっきりなしに、
僕を裏切って白くなってゆくことばがある。


空気を埋めていこうとする誤った決意
失望としての讃辞が流れていく。
ことばは今度こそ僕の馬脚をあらわにする、
二重の、痩せ細った--


痛ましいものをかきわけていくように、
影のほうへと走っていく。
いまは鉄を含む総てのものが
冷えていく頃合いだ。


風はまだ吹いているか?
午後の--
東へと向かう橋の
高みのうえで、
いまも、


見えない問い返しが
視床下部で続いている--
これがとだえた時は、
この僕の身に何かが起きた時だ。


UPLOAD 89/03/26 06:36
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 驟雨


終わった
夏の
遺骸を拾いに
眼は窓のほうへ
漂っていく
十年前から
意味なく白かった壁
憂うつで美しかったその壁の
崩れ落ちる を
いつも繰り返し想像しながら
立ち去るのはいつも
自分だった
このことは変わらない
ずっと
空に対して完璧な風景のなかで
僕だけがはじきだされて
ずれ続けている


どこへ


ここでもまた
楽章は同じところを反復する
積極的な意味ではない
どうにでもなれ
と思う
いずれにせよこの物言いは間違いだ
僕は何も味わうまいと誓った
正確に
同じ場所だけを通るのだと


見えない虫たちの悲鳴で空気はいっぱいになる 接近路は円環に
閉じられ 最初の椅子に座ったまま僕は耳鳴りの警告を待ち受け
ていた 頭を何かの樹にもたれたまま 幹から伝わる地殻の轟き
を聞いても そのままで じっとしている決意だけは していた


置き去りの雨が
唐突に降り始める
部屋の中では
落ちて来ない雨は避けようが無い
じっと椅子に座ったまま
屋根が水に浸されていくのを感じてみる
痛いはずはない
同じ歌ばかり十年来ずっと
書きつづけていた
体裁さえさまになっていればいい
この無言の夏に
僕は疲れきっていた


夜半に雨は止んだ
僕はここに居たままだ
澱みを費消しても
何ももちあがりはしない
あの白い壁の中でも
もうひとりの誰かが極く自然に
ぼろぼろになっていく
いずれ窓も通気口に過ぎない
ゆっくりかきまぜられる空気のなかで
僕が性質をなくしてゆくのは
限りなく普通のことだ
十年前から意味なく白かった壁


濡れた道は
音もなく乾いてゆく


UPLOAD 89/10/09 12:20
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GEWALT(ゲバルト)


何を喜べというのだ、
今夜。


感謝しろというのか?
ここに居ることを?


あらゆる喜びから見放され
誰からもあなどられて、
馬のように考えもなく働いて
ささやきかける女もいない。


どうにかして自分に明日を思い込ませ
昨日の回廊を完全なまま折り返していくのを、
生殺しの蛇のように退行の感触を
生きたまま感じるのを、
どうして喜べる道理がある?


だがもう一度決心したい、
今度こそ何も希望しないと。
感じるものは
奪われるものだけだ。
今や全く価値のないものを
守っていることに
気付かされるだけだから、
考えたくもない吐き気がする。


慰められ けしかけられ ののしられ
そうしてもらってもまだ生きられない。
そんな調子の俺にどんな権利もあってはならない。
座っていい椅子があるような。


誰も、どこからも来るな。
まだ苦しんでいられるだけの
くだらない余裕が俺にもあるらしい。
認識票を持ってないなら、
顎の骨を引きちぎっていけ。
そうすればあの世のあいつも、
痛みというのがどんな感じか
ようやく分かるに違いない。
弾幕の中で犯した過ちは致命的で、
俺の償いは亡霊になっても続いてくれる。
永久に何も抱いてはならない。
石も。
ずっと裏切り、裏切られてきた。


取り戻すことのできないものを
学ぶ力のついに無いまま、さらに闇へと捨てていく。
何と贅沢な破綻だろうか、続きたければ続け、
記述のない、思い出せない時間。


しかも夜。
手違いを起こすならば今だ。


バールを。
今度こそ、一本のバールを効き手のほうに。


UPLOAD 89/11/10 02:57
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<1990年>


 落 選


静かになった事務所の中で
手紙をくり返し読み返す
他にすることはあっても無い
ただどこかが前のめりに倒れさって
妙に床が冷たいと思うように
落ち着いていく部分と諦めていく部分があって
いくらか楽になる
これでもう、どこにも行かない
なるようになったのだ             *
夜の嵐の目の中の晴れ空 *
そこへ吸い込まれるように
ひとりのひとの思惑は吸われていったのだ
しおれたバラの花がひとくさり
水はみずみずしい死をたたえて
それはコップの中でも天と地と同じ
そのメニスカスを頭上にかざす
見られない 見ていない
全身火傷の男の叫びも
感覚されない広さで感覚されない
影響は出ない 出なくなった
ただ肌寒い
この時刻
もう誰も来ないから


               * サン・テグジュベリ「夜間飛行」より引用


UPLOAD 90/02/04 01:57
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 カッフェ・マンデルブロー


いつもの のようで、
決して
いつものではない
いまは確かに朝で---
馴染みのアナウンサーが
電波でしゃべくるのが聞こえる。
ここへどうやって来たのか皆目わからない。
でもここはいつもの---
のようなあの通りで、
ゆうべの侵犯の悪夢に
まだ麻のように僕の識域下は潰乱したままで、
いま傘を差し出されたら、その尖った先を
握ってしまうだろう、のような
もの想いにさいなまれながら、
僕の足はいつのまにか
どこかの狭い階段を降りにかかる。
カッフェ・マンデルブローへ。
錠前屋と独裁者の初めての出会いの直前のように、
それさえもどこかで受けた被害の追認に過ぎない。
入口には天秤とひしゃく、
百葉箱には湿度を測るための水があり
電話の傍らには黄ばんで読み取れない詩集もある。
主人は熱心にパイをこねる、
1回、2回、3回、4回・・・
素材が分からなければ、
分からないなりに調理するのがシェフの仕事。
僕の目は入ってゆく、
壁紙の意味不明のダルマ模様に。
全体が部分であり、
部分が部分であるその絵のこと。
タテ軸には僕たちの羊がいて、
ヨコ軸には太陽につがう海がある。
羅針盤のように僕は恐れる。
間断なく続く町の轟き。
殆ど連続しているようにひらめく、
その傾きがなぜか時間では測れない。
連続ではない、この憂欝なもの想い。
壁でする物音は鼠ではなく気送管
楼閣が地下と空中に広がっていることさえ、
息苦しくて想像できないほど僕は追いつめられている。
解放端はブラジルへ。
閉鎖端はチャイナ・タウンへ。
狂った国際情勢がきれぎれに共鳴する。
くり抜いた天井から盗み聞きしながら、されながら
見たこともない飛騨高山の仏像群に接続していた。
あの日の午後だ(いつから)、いまは。
僕はモニターにネイルダウン(釘付け)にされる。
「モニター」、飛べない砲艦、
押しつぶされた新聞で出来た「憂欝で美しい壁」。
間断ない断絶の糸目をつけない放逐である。
油断なくブラフをかませながら、
僕は救われない春に落ちてゆく。
読み出されたことのないものが読み出され、
整理しようとして整理できないでいる人たち、
それでいいのだ。
n次曲線は立ち上がり(それでいいのだ)
僕も猫たちの舞い踊りにかこまれてしまった。
音のしない奇妙な踊り。
どのようにでも詩句が続いていくのなら、
もう僕は死んだのと同じだ。
それでも壁はしきりに揺れ、
いつの間にかカフェは消え去り、
僕はあの通りを
階段を探しながら歩いている。
どこかで僕は眠り、
そこから歯を磨いてから出てきた筈だが
カッフェ・マンデルブロー
海岸はどこまでも続き
僕は
どこへひき返せるのだろうか。


UPLOAD 90/03/10 01:56
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 NEXT


ひとつごとの物語は終わった。
病人は今は落ち着いているし、
水夫の捜索は打ち切られた。


よく言われるように、
実は僕が遠い場所で生きていたのが分かる。
厚い壁の部屋で囚人のようにくつろぐ。


夜は好きなように広がっている。
Gで始まる英単語を、
思い出せる限り書き出してみる。
(  )は、まだ見えてこないと誰かが言った。
手違いではないのだ、から、それも。


気送管のあの地図に、スケールを書き込むのを
なぜためらったのだろう?
考えはいま一歩のところでまとまらない。


スミスの海図の中を、
この帆柱はどのようにさまよってきたのか。
ここに弓のようなものを置けば、同じように、
それは鳴り出すのではないかと誰もが思った。


では、と背中を向ける。
ある人には分かってしまう種類の謎がある。


猫は、
見えるものに耳をすます。


(  )を、どこで切ればいいか。
冷たくて濃い空気のなかで、
僕はそればかりを焦っている。


※改作後「えふ・ぽえむVol.2」へ掲載しました。
UPLOAD 90/04/06 02:18
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 RANGE


遠い
冬の曇った午後
広い窓との距離が
つかめない
ほの明るい場所から
昔聞いたおもちゃの音や
幼い幻が
どこかをひっきりなしに通り過ぎる
それが不安にさせる
中庭の石は いつか
ずたずたに切り裂かれたイヴォンヌとマドレーヌ      *
の影
でも匂いがここにはない
彼女らは 生きていなかったか
のように僕には遠く厚みがない
その言葉をくり返し
重ねてみる
明り窓のガラスが丸いように
意味がない


いつ
自由でなくなったのか
ドアのノブに体重を移しながら
襲われている
「次」のことが僕を攻めつづけている
立って、
歩いて、
声を張りあげて………


従妹(いとこ)は
アントワネット妃のような
完璧な盛装をしているのに
僕を懐かしがっている


そっと振り向くと
鏡はそこにはなく
あの時あの姉妹の
姉は異形の恋人ではなかったか
僕を裏切った食卓は
三ヶ月後にはもうきれいに取り除かれている
ここに雨を降らせる場合
僕はどこからこの窓に関わればいいのか
分からない


また
搖れる気配がする
冷たい窓の中で見えるものだけが
ここといまと向こう側を
つないでいる筈だが


僕は
包囲下に留まる


*マルセル・デュシャンの初期の絵画作品。


Update 21.Apr.1990
UPLOAD 90/04/24 02:50
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 LAST REGRETS


冷たくて暗い夜
あの海へ
風のない
あの時刻
もう取り返しようもない時刻
いとしかったものを切り取り
戻ろうとしていた
何処へ だったのか
何を聞いていたのか
足元の砂
誰か抱いていたような甘い重み
(覚えている)
そして刃物
歌のなかに前後は奪われている
夏の昼間の白い壁
あらゆることを知らせようとして届けられた
一個きりの通票
こばみ続けたのは何だったのか
あらゆることを未整理のままで
失なわれる場所
残される知らないひと
最期になって思い出す歌


Update 21.Apr.1990
UPLOAD 90/04/24 02:52
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 Random-Note


ホルスタイン。
詩を書きたい。
でたらめの番号で呼び出す。
「体なんて・・・」
肉、またも肉の支配。
気ぜわしい気狂いの予感。
「絶対的自我の踊り」を、
だから何か。
だから何か。
詩を書きたい。
でたらめの。
動機はだんだん曖昧になる。
雨の急襲で溶け流れる。
ラジオの知らせでかけだす、
全くの手遅れ。
僕のなかで僕はついえていく。
僕は、が、の、に、を、
犠牲にしたい(何を?)
物を言い過ぎる。
駆けだしていく。
駆けだしていく。
馬なし馬車の衝動のように。
行きたい。
死にたい。
仮想の上での、おはなし。
夢見る尖塔群。
またも、千の、眠り。


ホルスタイン。
ずぶ濡れの。
詩を書きたい、
お前に向かって。


※「えふ・ぽえむVol.3」に掲載
UPLOAD 90/10/14 00:10
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<1991年>


 ソリテア


ごらん。
これが僕らへの、
最後へ向かってのはなむけだ。
限りない夜。
千々に乱れる海、
死の前に揺れる草原。
見えない羽撃きの音に包まれて、
背骨はいま一度
叩き出されるのを待っている、
どこでもないどこかへ。
狭い背中。
回復不能になったものの痛みを
ゆっくりとなぞりながら、
裏腹な悲しみを楽しんでもいる。
途方もないはぐらかし、
逆走に至る迂回路。
子供たちにさえ阻まれて、
「始まりの丘」にはついに行き着けない。
だから風を。
どこからでもなく、
どこへでもなく、
ただここにいてここにいる、
僕たちを攻めあぐねて
渦巻け。


さあごらん。
これがいままでの僕らへの、
陽気な別れのために
たむけられた花だ。
千々に乱れる海、揺れる樹、
霧に隠された尖塔。
そして見ることの出来ない、おびただしい羽撃き。
教えられなかったその事が逆説の教えだとして、
次へ、どれでもない次へ。


どこでもないここでいま、
空気を押し分けている。
体で。


UPLOAD 91/08/22 23:52
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 BLUE VISION


オルセー美術館の、一枚の壁のなかから、
おまえがその時何を見てたのか、
いまごろになって分かった。


空を見上げていたんだ。
やせっぽちのおまえ。
青い冷たい時刻に、
不定の光彩におののていた。
暗示めいた山羊を抱きすくめて。


四つの文節群のさいご、
考えるまえにNegative(ネガティウ゛)を
右手は忘れずに入れていた。なぜ。
あとから何と言い換えようとしても
その影に、死臭に魅かれている、
影を避けられないまま避けようとする。


どうせなら知っといたほうがましな事。
足早に歩いているのに
背中から声が少しも離れない。


決意しない。
あらゆる無為を無為として、
それで時間は過ぎていく。
帯のようでいて、それは必ずどこかで、
あの一点にひしめいていく。
そのまわりには嫌な虫も寄り集まっているだろう。
予感して。


そのために冷たい。
いたたまれないようにして、
おまえ。


注1.パリ・オルセー美術館にこの「VISION」という青い絵は実在する。
UPLOAD 91/09/05 23:18
***********************************


Northumbrian(ノーザンブリアン)


その名にふさわしいものは
もう何もない。
ただ、昔ながらの荒くれた気性で、
もう決まってしまった物語の最期の部分に、
いまいちど
目玉以上の抗がいをしようとするだけだ。


いまさら自分のやり方を、新しくとか柔らかくとか
考えない。
いつかこれしかやりようがなくなっていた。
これもじきに塞がれる。


アックス。
似合うのは戦斧。
無口で。
刃物というより鈍器。
頭ごと顔を叩き壊し、
直後の腕の痺れとひきつり、一生涯取れない疲れを
その肩につのらせる。


思い通りの幕切れは
ありえない。
感傷的すぎる。
ただ体と武器だけでたたずんでいる。
もう詩は要らない、と言われた詩人のように。


Northumbria:スコットランドと境界を接するイングランド北部の古王国。現在はNorthumberlandという州名で残っている。その住人をNorthumbrianと呼ぶ。英陸軍第50師団がこの名を持ち、先の大戦ではノルマンディーで上陸、勇戦した。
UPLOAD 91/09/07 18:45
************************************



<1992年>


BERLIN CALLING
(NON-INTEGRATED VERSION)


RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR
RING RING RING RING RING RING


    1


中心を
見つけられない。


さしあたり困りはしないけど、
ガラスの向こう側に行けない。
そこにある、妖しい花にも。


    2


(目を閉じれば)
(垂直な振動に襲われ続ける)
(あらゆる模様の夢。サーマル・ランニング)
(たちまち僕を裏切って)
(クリアされていく区画・時間)
(WHERE TO?)
(BRAZIL(CR))


    4


羽虫たちの上陸を告げる、
天使たちの声。
(なぜ、ここに来た…)
いいところだったのに。


    8


「いずれ、そうなります」
ダミ声にふり返れば、
好きなように市街は広がっていた。
光は北、闇は南、
この川をはさんで適当に
でっちあげに輝きをいやます。
どこにいても
ベルは鳴るし、
あとひと息というところで
あなたは僕を見放すことになっている。


    16


不幸せは天井くりぬいてでも
やってくるだろう。
気まぐれな白兵戦。
かすめ取れるものはないのか、
生きるために。
もっと手がるに、
嘘の破滅は楽しめないものだろうか。


RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR


    32


あっちのほうで、
最後の争いがはじまってる。
どっちかが無くなるまでの。
(帽子屋を知らない?)
(蛇口のついている?)
もうちょっと間合いを取りたい。
「机の前に物を置きなさい」と言ったら、
どこに置けばいいの。


    64


RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR


もう眠る?


60sec to Gone.


(突き立て過ぎだ!!!)


RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR


    128


カンバスに、
時計の群れを描こうとしている男。
一斉に鳴り出す直前の。


暗い広がり。


    256


ダークグリーンに塗られ、
無数の鋼材。
トラスに組まれてドームを形づくる。
事後のような承前のような、


開ク。
閉ヂル。


RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR


    512


有罪。


    1024


RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR


ボス・カミング。
視界はたちまち萎縮し、
庭園のようにととのっていく。
でも絵の中のレンズに描いていた、
渦のような赤子は?


RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR


耳鳴りが止まない。
放送機の前にしがみついている。
TVになりたい、
大人になったら…


    2048


エルンストさんの機械、
クランクのついたはずみ車、
RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR
経済の好きなチョコレート練り器、
てっぺんにはケタ外れにでかい丸いランプと
48匹の人魚の彫像、
RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR
これは行きちがう恋人たちの記憶を
左右に拡大するための装置なんだそうだ。


    4096


(開ク)
(閉ヂル)
RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR


    8192


空中楼閣。
ここで彼は。
眠ってはいけない。
どうやって、だが、
尖っていくものが微笑む。
RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR


    16384


黒い服、
黒いレース。
深い身体で、
深い瞳で見つめる。
「まだ決まらないの?」
死にたいお魚は、
火の口になんとかして近づきたい。
カサ雲。


RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR


    32768


立ち上がり、立ち下がる。
触れては、去っていく。
去り難いのに。


    65536


微笑んで、


あなたはひとこと言い残して、


夢をRR RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR
RRRR RRRR RRRR 見なくR RRRR RRRR
RRRR RRRR RRRR RRRR RRRR なるRR


人だったものを切り売りする。


熱帯夜に漂ったまま、


刃先は深い目に、


悲鳴はお静かに。


UPLOAD 92/02/04 00:04
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 CROSSFIRE(遭遇戦)


まきぞえになったんだ。
今日も。


這いつくばる場面が続く。


考えなしの。
出会いがしらに、
ぶっぱなしたら
自分の鏡像がコナゴナに後退していく。
それもこれも俺のせいなら、
憎むのはむしろハラワタ。
面白い、生きていて
自分を憎むものはいないと牧師も言ったのに。


かなわないものがそそり立っていて、
思い出から目をそらそうとする。
悪質な冗談。
あのあと百年生きよう、そう自分は笑いかけたのに。
這いつくばるのが実は願っていたこと。


言いたいことがあって、
拒まれた時刻があって、
忘れたい契約があって、
逃げられない身体がある。


向かい合うのは樹木のおぼろげな影で、
その影にも正対できない自分の背骨があって、
けだるい午後にただ休んでいたかった。
思い付きの言葉の海に溺れ、
終わっていることを続けようとする奇妙な家族たちと。


白日。
つきたてよう、としたが。


UPLOAD 92/06/27 01:24
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 ノイスポッター -死んだ魚の目-


 

抑止.                      (ホールト)


抑止受諾.              (ホールトアクノリッジ)


浮かびあがってくる.
廃都.
おびただしい羽蟻.
拒みつづけたもの.
美しかったひとの
死の輪郭.
オイルミスト
油霧で曇る….


-悪いものを見すぎた-


3次元像のなかで
微笑むしぐさをくり返す.
くり返す.
くり返す.
抑圧できない白濁が浮きだす.
声:のような.
片寄り.
温度がない言葉.
赤い夏.
苦しい.


-悪いものを見すぎた-


系列1:私へと至る類焼。構造線上の未発達な生成物。弱い結びつき。クモの揺
    動。導火線。踊りかかり、すべて包囲してからひとかみで裁断させる。
系列2:私を焦点とする楕円。正弦にのっとる旋回。不均一な振動・タービュラ
    ンス。おもいで。一度も安定せず、次第にあのかぎ針に近づいてくる。


走査: 一枚のだまし絵をわたり、別の絵へぶれる。細かい糸を引きちぎり、飛
    び越す更新を無効とし、読み取りをうねりの中にただ捨象させる。


-Codeは有限へ遠ざかる-


塔はそびえていたか.
未明の砂が荒れる.
嵐の表面に渦が見えて
父はいない.
ありのまま空気がざらつき
手の不愉快な感触.
(渦が見える)
(私は不均一な網目を抱く青ざめた麻)
(表面でずれ続けるモアレ)
(闇のなかに自我の踊り)
(格子、焼けただれた格子)
(白濁した光が追いかけていった)



つき刺さる.


水音.歯車.先端.
恋人よ.恋人よ.



   A2
        A3
             A4
                  A5
                       A6
   終了する.                     A7
   終了しない.                         A8


-悪いものを見過ぎた-


終幕:浮きあがろうとする魚.
   ついによこたわっていく.


警報.


打撃される.


※註:「ノイスポッター」…その昔、ホビージャパン誌に連載された近未来戦闘SF「SF3D」に出て来た偵察用センサーメカの名前。クラゲがいわゆる「ぬえメカ」化したような外観をしている。
UPLOAD 92/07/31 23:57
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<1993年>


 作者註:この年、私は一編も詩をネットワークへアップロードしなかったようです。プライベートな悩みや仕事の問題が、詩作にも如実に反映しました。…私事ですが、この諸問題から翌1994年3月、私は転職に至りました。
 唯一の作品が93年夏に刊行された「えふ・ぽえむVol.4」に収録された「朝の方向」でした。


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 朝の方向


日曜の午前、
歌唱いはうたを唱う。
拒むでもなく、認めるのでもなく。
きのうのことやおまえのこと、
内心信じていない教えのこと。
身体はまだどこかに残したまま、
思うことは微風のように網膜に淡い。


強引に動き出そうとして傾く。
曇りの筈の空がまぶしくて
簡単に天使を見失う。
(この角まで来ていなかったか?……)
肩は押された形で捻れたまま、
別件の痛みを思いだして不愉快になる。


靄(あい)をおびた日々のありようが、
自分にとっての端正な今日だとして。
私というふくらみ、粒子、波動が、
何を患い何を損なっているのか。
身体はどちらを向いているのか。


いとしい人がいて、それが時と共に遠ざかり、
上手くたちまわれないまま今日も終わるだろう。
いま空気は動き、それを感じる自分はいる、どうしようもなく。
天使は曇天をどこに舞い上がったのか。
まなざしは捉えることをまだ始めていない。
延ばした私の手が私の果て。
顔を触るものがまだ事実だということ。


Update '93/05
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<1994年>


 承前 (X-1 day)


きびすを返して


あなたは水源へ向かっていった


軽やかな足取りはカモシカのよう


僕は晴れていく空に


とり残される


それさえも春の息吹きの中


額には早くも狂った青の兆し


日時は汗ばんだ服と動き出す


それも不穏なほうへ…


だからこそあなたの背中が


困難な運河へ向かった一隻の竜骨に見える


明るいものを見たいと思って


ここへ来てよかった。


UPLOAD 94/05/12 23:56
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 Are You Wake Up?


風は
吹いているか?


生きもののうたを
歌ったことは?


同じKEYばかり繰り返し
打ち込んでいないか?


さらされていたいんだ。
石化したと
言わんばかりに。
うずくまって。


ぎりぎりのところでは
ささいなことが問題になる。
身体に硝子を嵌めこめるか。
暗い窓からなにが読めるか。
ひとつのうたに
あなたをまとめることが
できるか/できないか。


できるのは
手のする裏切りだけと知って。
「考えられないもの」を
つくりたい手のために。


風は
吹いているか?


いるのは午前3時、
空気のいちばん深いところ。
子供じみた幽霊とごみと
馴染むにはいい界面だ。
土という闇と、酸素という炎の。

樹系の記憶(受刑?)
地軸の合唱隊群。
見えない動感に包まれて
どこまで行こうか。
蛍光みどりに光る
架空のあのひとの架空の顔に
カリウム不足の涙が流れる。
延髄を打ち抜いていったのが
5分前だよ。


「…は吹いているか?」


「…は…」


まだ目覚めてる?


腕が動くうちに
確かめたほうがいい。


右手は持ち上がるか?
上体は?
果物をつかむことはできるか?
吐く息で窓は曇るか?


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※Inspired by "ARE U WAKE UP?"
(Compact-Disc "JULIANA'S TOKYO Vol.3",avex trax)
※歌詞の引用はしていません。
UPLOAD 94/06/14 22:48
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※これ以降の作品は、別途整理の上、再公開する予定です。
 またテーマ別の詩集も3集を計画しております。どうかご期待下さい。

                   1996年7月21日 大村 浩一



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